EPISODE
「ドイツワインには何ができるのか教えてやろうか?」
夏の暑い午後、ドイツに住む友人は、これから子供を驚かせるような顔をして
一本のボトルをセラーから取り出してきた。
白いシンプルなエチケットには蛇行するモーゼル川の形が彫られており、
その無駄のなさに既に好奇心が刺激されていた。キーステンと知り合った日だった。
若いビンテージだけど、グラスに注がれたワインは淡くなく、凝縮感を漂わせる。一口。
角がなく、丸みがあり、それでいて上品な酸が緊張感を保っている。
友人は嬉しそうにこちらを見ている。
「黒い鉱物を感じるだろう?」
まさに。
「キーステンの畑は主に黒いシストから出来ていて、とても痩せている。
その鉱物をブドウの根が砕き、そこから染み出す栄養分を吸い取ってくるんだよ。」
手でも容易にボロボロ砕けるシストを想像しながらもう一口。
鉱物を砕いて混ぜ、出汁をとったらこんな味になるのか?
蜜のように凝縮しているが、決して甘くはなく、果実味を強く感じるわけではない。巷では、和食ペアリングが声高に叫ばれている。
個人的にはワインを和食に合わせる必要性はあまり感じていなかったが、
自然と和食に合わせてみたいと思ったワインだった。
正直、真夏の太陽がジリジリ照りつける中で飲みたいリースリングではなく、ゆっくりと座って食事と変化を楽しみたいと思わせるワインだ。
主張が強くない一方、しっかりとした芯があり、
食事にスペースを与えながらも、ワイン単体で楽しめる。
ペアリングの妄想を掻き立てるワインは、常に心を若返らせてくれる。
炭火で焼いた鳩や鴨といったジビエを想像しながら飲んでいたら、
無性にキッチンに立ちたくなった。
ABOUT
キーステン醸造所は何世代にも渡り、家族経営でワイナリーを営んできた。1992年に現当主であるベルンハートに世代交代し、新たなスタートを切った。
ひと昔前、モーゼルには葡萄畑を所有しながらも畜産を営む小規模な農家が多く、
キーステン醸造所もその一つだった。
1992年の世代交代時、畑はわずか3haだったが、その後徐々に拡大し、現在は22haを所有するまでに至った。
平地に畑は所有しておらず、全てが急斜面な畑になる。多くの畑は中部モーゼルにあり、幾つかを下部モーゼル(テラッセンモーゼル)にも所有している。
基本データ
[国・地域]
Mosel, Germany (ドイツ・モーゼル)
[地区]
Klüsserath (クリュセラート)
[代表者]
Bernhard Kirsten (ベルンハート・キーステン)
[栽培面積]
22ha
[年間生産量]
140,000本
[栽培品種]
リースリング、ヴァイスブルグンダー、シュペートブルグンダー、ソーヴィニヨン・ブラン