EPISODE
「いいワインがあるんだ!」
中学高校時代を過ごした第二の故郷、ダルムシュタット。
フランクフルトから南に30lm離れており、ちょうどこの地よりハイデルベルグに向かって山々が広がり始める。
まるで登山客でにぎわう麓の町のような雰囲気を出すこの街が好きだった。
久々にダルムシュタットの旧友を訪ねていたところ、
この街の出身でいま世界的に知られるようになったワイン生産者がいるのだと、連絡先を渡された。
後日、車を入らせて門を叩いた。
背が高く、スレンダーな若い男性が迎えてくれた。
とても落ち着きがあり、静かな自身に溢れているように見えた。
すでにワインを試飲しているような気分になる。
「ここには広く石灰土壌が広がっている。
重くて派手なワインの時代は終わった。
この土地からは、無駄がなく、洗練されたワインが造られる。
欧米の比較的重たい食のみならず、和食のような繊細な食にも合うワイン。
そんなワインが造りたいんだ。」
彼のコメントをそのまま体現したような端正なエチケット。リースリング。
「リースリングのような酸度が高い品種に痩せた石灰岩土壌は合わないと長年言われてきた。確かに僕らのワインに肉厚なボディを求めるならその主張は正しいと思う。けれど、この土壌にこそ僕らが求めるワインがある。」
ソーヴィニヨン・ブラン。シャルドネ。シュペートブルグンダー。どのワインにも土壌のサインが刻印されており、彼が目指したい方向が示されている。彼のワインにはどれも「スペース」があり、自然とペアリングについて考えさせてくれる。選択肢は多そうだ。
古代、音のない海底で静かに呼吸をしていた珊瑚を想う。ブドウ樹に吸い上げられた珊瑚の片鱗が、グラスの中で息をしている。
アンモナイトの浜焼きと飲みたかったり。
「ドイツワインは今新時代を迎えていて、これからも多くの若手生産者が台頭してくるだろう。その中でも僕らはこの石灰土壌に恵まれている。食とワインを切り離さず、一つとして楽しむ文化がドイツでも広まったことで僕らのワインも高い評価を受けるようになった。そのような文化が既にある日本でどう受け止められるのか楽しみだね。」
落ち着いた雰囲気を崩さない彼と、静かな自信が篭ったその言葉に自分も高揚感を覚えると同時に、同じダルムシュタットの出身として気が引き締まった。
ABOUT
ドイツの若手醸造家でトゥーレ兄弟ほど短期間に広く知られるようになった生産者はそれほど多くないだろう。2006年に親からワイナリーを引き継ぎ、化学肥料や除草剤の使用を止め、テロワールの研究など思考錯誤を繰り返し、瞬く間にその名をドイツ全土に轟かせた。彼らが辿り着いたのは、所有する石灰岩土壌の畑の特徴を実直に表した端正で透き通るようなワインだ。
「かつてドイツでは、酸度が高いリースリングに石灰土壌は合わないと言われてきた。リースリングの場合、土壌が痩せていると最終的にギスギスした柔らかさの欠けたワインになってしまう、と。しかし、気候の変動とともにその常識は変わった。僕らのワインを飲んでもらえばわかるだろう。」とクリストフは、彼らの畑がワインに与える個性は唯一無二だと語る。リースリングと並び、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワールといった石灰岩土壌とセットで語られることが多いフランス品種もトゥーレの名刺代わりになっている。
遠い昔ザウルハイムがあるこの地一帯は海底であり、長い年月を経て海水は徐々に後退していった。その際、浜となった箇所には多くの堆積物が残り、結果としてこの地には細かい石灰の粒子が凝縮している地層が点在する。石灰岩の粒子は2μm(2000分の1mm)以下になると、ブドウ樹にとって吸収可能な大きさになる。トゥーレの畑全体の40%はこの細かい石灰粒子から成り、その比率はドイツ国内でもとても高い。
「秋に畑を見渡してみると、ブドウの葉が緑色の区画と既に黄ばんでいる区画が見つかる。黄ばんでいる区画は、その土壌が特に痩せていることを示していて、細かい石灰粒子を多く含んでいる。僕らの畑にはそういった箇所が非常に多い。」
それぞれロワールとブルゴーニュから持ち帰られ、この地に植えられたフランス品種がその本領を発揮するための条件は揃っている土地だ。
「これまで色々とネガティブなイメージを持たれてきたドイツワインだが、若い世代として僕らはこの土壌から生まれるワインで新たなドイツワインの基準を打ち立てたいと思っている。」
WINERY
トゥーレは17世紀からこの地にワイナリーを所有している。
トゥーレという名前の元でワイナリー経営を開始したのは1984年だ。
2006年には現当主である兄弟クリストフとヨハネスがワイナリーを引き継ぎ、ワイン造りは根本的に変わった。
化学肥料や除草剤の使用を止め、手作業の仕事を大幅に増やし、収量をぐっと減らすことでワインの質は格段に上がった。
トゥーレはヘッレ(Hölle)、プロブスタイ(Probstey)、シュロスベルグ(Schlossberg)などの中世から上質なワインを造るとして知られていた単一畑からもグランクリュに相当するワインを造っている。
トゥーレを最も特徴づけるのは、約2000万年前に海底で形成された石灰岩土壌であり、この土壌はワイナリーが位置するザウルハイム一帯に広がっている。
この特異な土壌とマインツ盆地の気候の好条件が重なることで、酸度が高くもしっかり熟したブドウが収穫される。
基本データ
[国・地域]
Rheinhessen, Germany (ドイツ・ラインヘッセン)
[地区]
Saulheim(ザウルハイム)
[代表者]
Johaness Thörle (ヨハネス・トゥーレ)
[栽培面積]
28ha
[年間生産量]
200,000本
WINE LIST
Thörle Riesling 2019
トゥーレ リースリング 2019
AOC 白・辛口
品種 リースリング100%
【ワインについて】
石灰岩、泥灰土からなる区画で収穫。プレス前にアロマを最大限引き出すために12時間マセレーション。プレス後、90%をステインレスタンク、10%をドイツ産のオーク樽(600~1200L)で自然発酵を促す。5ヶ月のシュールリーを経て、春にボトリング。
【ワイナリーについて】
ング、ピノ・ノワール、シルヴァーナーに焦点を当て、化学肥料や除草剤の使用を止 めた。手作業の仕事を大幅に増やし、収量をぐっと減らすことでワインの質は格段に上がった。また、トゥーレが位置する ザウルハイム一帯には約2000万年前に海底で珊瑚が凝縮して形成された石灰岩土壌が広がっており、ミネラル感が凝縮した偉大なワインが生まれるポテンシャルを持つ。