EPISODE


外見は普通の一軒家でドイツの田舎によく見られるシンプルな造りの家。
ガブリエルは落ち着きのある笑顔でドアを開けてくれた。
「いらっしゃい」
ドイツの高校時代の友人を訪ねたような気分だ。
居間を通ってそのままガーデンテラスへ。

去年、ユルグと会った際、良い生産者を知らないかと聞き、いくつか名前が挙げてもらった。
日本に帰り、一軒ずつインターネットで調べて、エチケットを見て直感的にここだと思ったのがショイァマン。
そして、その彼が笑顔で前に座っている。
「目は口ほどに物を言う」のと同じように、エチケットはワインほどに物を言う。
「ラベルのこの8のマークはScheuermannのイニシャルSと人間と大地の間の無限の循環をモチーフにしたんだ」
早速何本もボトルを並べてくれる。
ここから複雑な心境で彼の家をあとにするか、高揚した気分で彼のワインを紹介する人々の反応を妄想するかの分かれ道となる。

まずはSO2フリーのゼクトから。日本ではサンスフルという言葉が定着しているけど、ドイツ語だとシュヴェーフェルフライ。綺麗な酸で華奢なボディ。

続いてルッパーツベルグ村とダイデスハイム村から生まれるリースリング。
彼らが如何に畑とその土壌を大切にし、生系の維持に力を入れているかという話を聞きながら、最初の一口も利く。まだ曇っている。

数分が経過し、ワインはゆっくり起き上がるように一つの方向を目指し形を変えていく。
「今ドイツ国内でも自然派生産者が多く出てきていて、SO2を使わずにワイン造りをする人も増えている。
たしかに僕らもあまり使用しないけど、「SO2フリー」ということに拘らない。
それよりも、僕らが代々受け継いできたこの土地を守り、さらにその味わいを瓶に詰めたいと思っている。
ルッパーツベルグとダイデスハイム、その他のいわゆるプルミエやグランクリュと呼ばれるような区画の味わいは驚くほど違って多様だ。
世界中にブルゴーニュのミクロクリマに詳しい人たちはいっぱいいるけど、ここも同じくらい面白いんだ。」

数多くの生産者の中から、まだ20代のこの兄弟に会えたことが嬉しく、ほっとした。自分がワインに求める透明感だった。
日本に素敵なワインを紹介できる幸運を喜び、握手をして彼に自分の気持ちを伝えた。

その気持ちに応えてくれるかのように他のワインも持ってきてくれた。


ABOUT



ドイツワイン造りのシリコンヴァレーとも言われるファルツ州。
その中でも多くの若手が集まり注目されているニーダーキエヒェン。

ワインを造り始めてまだ10年ほどだが、ここ数年でショイァマン兄弟は多くの人に知られるようになった。

「可能な限りピュアでエネルギーに溢れたワインを造りたい。しかし、それを追求するがあまりこの土地の味わいをワインに反映させられないということは避けたい。」

と語るガブリエルは土壌とブドウ樹の健康状態、そしてそれを取り巻く環境を重視している。


「全ての畑における仕事に大きな違いはない。
重要なのは畑のコンディションが常に安定しているということ。
つまり、ブドウ樹とそれ以外の植物のバランスを保つことと、常に畑の風通しをよくし、
カビが蔓延しないように注意している。

ブドウが健康であることが大前提であり、それなくして上質なワインは生まれない。
逆を言えば、健康なブドウさえ育てることができれば、あまり余計なことをしなくても良いワインは生まれる。」


現在ドイツ国内では、多くのワイナリーがビオロジックやビオディナミに転換しており、いわゆる自然派ワインへの流れは今後も大きくなることが予想される。

「ブドウにしろ野菜にしろ、より自然な造りに回帰していくことは歓迎すべき流れだと思う。
けれど、ワインが面白いのは、その土地の味わいを如実に反映してくれる飲み物だからであるし、そのためにはブドウの健康や樽、セラーの衛生管理など色々なことに注意しなければならない。
飲んで美味しければいいという主張は理解できるけれど、僕らは品種や土地の個性を正確に表現するワイン造りを目指したい。」


これまでショイァマン兄弟は伝統品種であるリースリングに主眼をおいてきたが、気候変動とともにファルツ州でも上質なシュペートブルグンダーやシャルドネが造れる条件が整ってきたことから、今後は品種の裾野を広げていきたいという。

ジモンとカブリエル兄弟はワイナリーの4代目にあたり、2009年に初めて二人のワインが生産された。
それまでブドウは共同組合に販売していた。

2012年にはビオディナミ農法に切り替え、2019年にデメテールの承認を得た。

彼らの畑仕事における理念は、土壌の特徴とそこに現れる唯一無二の個性を引き出すために極力ブドウ樹の生命リズムを乱さないことだ。
そのためには、土壌を守り、保持するのみならず、土壌の生命力をより一層活性化することが重要となる。
ビオディナミ農法はそのための手段を提供してくれる。
彼ら兄弟にとってのワイン造りとは、ワイン畑を取り囲む動植物とそれら多くの要素間のバランスを保つ人間がいて初めて可能となる。
その条件が整っていれば、人間がワイン造りに大きく介入する必要性はなくなると信じている。


基本データ
 [国・地域]
Pfalz, Germany (ファルツ・ドイツ)

[地区]
Niederkirchen(ニーダーキエヒェン)

[代表者]
Simon & Gabriel Scheuermann (ジモン&ガブリエル・ショイァマン)

[栽培面積]
20ha